ゴールデンカムイ第193話感想

こんばんは、うたげです。
ヤングジャンプで連載中の「ゴールデンカムイ」最新話の感想です。
ネタバレありますので、未読の方・コミックス派の方は気をつけてくださいね。

 

登別温泉

樺太組はすっかり落ち着き、杉元白石アシリパさんの三人組もすっかりいつもの感じですね。
尻を出し合う杉元と白石。…という字面だけだと何が何やらですが本当にそうです。
菊田・有古のペアは第七師団の中の反乱分子みたいな位置付けかなと思っていたのですが、他の兵士と同じように鶴見中尉を信奉しているよう。
それゆえに宇佐美・二階堂のほうがよりお傍に置かれていることを良く思っていないようです。
金塊に繋がる情報をより多く得るため嗅ぎまわっていた菊田はついに都丹が刺青の囚人とつきとめ、二人が激突。
というのが今週のあらすじです。

 

アイヌの昔話

作品の中で昔話(伝承レベルのものから個人の思い出まで)が出てきたら必ず何かに繋がる展開を予想しますよね。
ゴールデンカムイではアイヌの昔話がよく出てきます。
それが次の展開の伏線になっているので今回出てきたニヴフの「ばけもの川」というお話もつい深読みしてしまいます。
この話でキーになるのはやはり「」。
かなりわかりやすく杉元とアシリパさんの会話のシーンでまとめられていますね。
伝承されているお話には教訓があるもの。このお話の教訓は「悪いことをする者は、自分を見られることが怖い」。
アシリパさんがこういった旨のことを語るシーン、背後には横になる尾形が。
もちろんその目元には包帯が巻かれていますが、そもそも包帯がなくても柱で目が隠れる位置にいるという。
二重に目が隠されていて、尾形にこの言葉が痛いほど当てはまる存在だということを示しているように思えるのです。
アシリパさんの言う「悪いことをする」というのは行動そのものの是非が問題なのではなく、「うしろめたさがあることをする」ということなのではないかなと思います。
尾形は人を殺す人間には罪悪感なんてないはずだと自分に言い聞かせながら人を殺していました。
でも、ないはずだ、という否定の言葉は、それを持っているからこそ出てくる言葉。
こちらの記事(ゴールデンカムイ第187話感想)でも書いたように、尾形はそもそも人を殺すことに罪悪感を覚えていると思います。
罪悪感があるからこそ、人殺しは越えてはならない境界線を越え罪悪感すら覚えない存在になったのだ、という罪悪感を押し込めるための理屈が必要なんです。
今回、柱と包帯で二重に「目」が隠された尾形
罪悪感というキーワードは作品一似合う男ですね。

さて「」といえば忘れてはいけないのがやはりアシリパさん
ウイルクの娘というしるしとして、薄く緑がかった青いきれいな目を持っています。
そんな印象的な目を持つアシリパさんが、罪悪感代表・尾形の目を傷つけたというのは興味深いです。
アシリパさんの透き通った美しい目は、真実を見つめる目――という位置づけのような気がします。
まっすぐ見つめられたら罪悪感を持つ者は膝をつき改心する、という効果がありそう。
それってまるでキリストみたい…。

もう一つ気がかりな点があります。
それは杉元
杉元と尾形は似ているのですよね。
どちらも人を殺すことへの罪悪感から逃れるための自分なりの理屈を持っています。
尾形は、みんな罪悪感なんてないはずだ。
杉元は、殺されるやつは人間じゃないんだ。
二人とも主に戦争のさ中に敵兵と対峙した際の心の支柱のようなものだと思いますが、尾形のほうはアシリパさんの前で華々しく散りました。死んでませんが。
その屁理屈とも呼べる人殺し理論は、アシリパさんによってくじかれたといいますか、やっぱりおかしいってわかってるよね?と心の根っこの部分を指摘されたように見えるのです。
そして今の杉元は、先週の感想に書いたようにアシリパさんの意思から段々離れつつあるのかもしれない
これらの状況を踏まえると、どこかでアシリパさんが杉元を軌道修正する時が来るような気がします。
アシリパさんを解放するという目的のため周りが見えなくなりつつある杉元。
アシリパさんには杉元の目を覚まさせてあげてほしいなと…キリストよろしく迷える子羊を導いてあげてほしいなと思います。
その過程でアシリパさんが傷つく展開も予想できるので少し心苦しいですが…でもそういうこともアシリパさんなら乗り越えられるって信じてる。

 

刺青人皮集め

樺太は心理面に不穏な気配を読み取れますが、北海道ではドンパチやっています。
都丹は同じ盲目の仲間たちとあんまの振りをしながら第七師団の情報を集めていたのですね。
そしてそれを土方さんへ流していたと。
明かりを用いた戦い方は都丹らしく好きです。
自分の戦力を考えて有利な状況を作り出す、頭脳戦が好きなのですよね。
でもそれを上回る菊田特務曹長の先読み力
眼帯を外しながら暗闇で戦う様、かっこいいです。

かっこいい戦闘の他、第七師団の中がどうなっているのかが少し垣間見えたのが面白いです。
鶴見中尉が絶大な支持を集めているのはよくわかりました。
菊田特務曹長も鶴見中尉に心酔しているようですね。
でも、そんなカリスマ(という表現が合っているかは自信がないです)だからこそ、そのお傍にいるべきなのは誰なのか?という、右腕争いが起きているわけですね。
とはいえ階級も実力も申し分ない鯉登少尉と、過去の出来事を乗り越えてそれでも共にいる月島軍曹は、鶴見中尉の側近殿堂入りクラスでしょう。
なので菊田特務曹長が争う相手は、次点の宇佐美や二階堂になる。
宇佐美たちを妬ましく思いどうにかその座を奪いたい菊田特務曹長に対して宇佐美たちは特に何も気にしていなさそう。
果たして菊田特務曹長のこの奮闘が報われる日は来るのでしょうか。
たいてい仲間内の誰かの座を奪おうとする側ってうまくいかないことが多いので心配…。
それに都丹も、得意な暗闇での戦闘も決して有利ではない状況で、どう戦うのでしょう?
先週まで樺太の果てのさらにその先の氷の上で、満身創痍の男たちの悲痛な戦いが続いたので、久々のテンポのよさそうな戦闘にワクワクします。

来週も楽しみですね!

 

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ゴールデンカムイ第192話感想

こんばんは、うたげです。
ヤングジャンプの「ゴールデンカムイ」最新話の感想です。
ネタバレありですので未読の方・コミックス派の方は気を付けてください。

 

第192話 契約更新

やっぱり都丹だった!!
先週から都丹では?と思っていた暗闇に響く下駄の音、この流れでの登場はまず間違いなく彼のことでしょう!
無事に再登場おめでとう!額の傷跡が、彼のしぶとさを物語っていますね。

今回は硫黄山での都丹たちの強盗のときとまったく同じシチュエーションでウキウキしますね!
暗闇に下駄の音が響くという噂から始まり、温泉で按摩さんから情報を聞く。
にくい演出ですね。
…ただ、過去のシーンとオーバーラップするところが多いなと感じると、それだけ物語としては回収のターンに入っているとも読めるので、終わりが近いという悲しさはありますね…。

それに今回は「樺太編のまとめ」とも言えるくらいに状況が整理された回なので、より一層、終わってしまうんだなぁという切なさを感じます。
なんで「樺太編のまとめ」と思ったかって。
・ずっと疑問に思っていた「尾形の目的って何?」について、登場人物たちの持っている情報と思惑が整理された。(でも結局わからない。今名言されていないものが答えだと思うのでおそらく金塊でも少数民族でもない)
・過去話からググッと内面の深掘りが進んだ月島軍曹がらみのところでは、スヴェトラーナの件が解決した。
・鶴見中尉や土方さんなど別陣営についての認識がアシリパさんのセリフで整理された。
・物語の開始のときにアシリパさんが杉元と交わした「父の死の真相を知りたいから金塊探しに協力する」という約束が、未だに真相が不透明であって⁰、それが樺太編から先も原動力になると再確認できた。
ざっと挙げるだけでこれだけあります。
要するに「区切り」が多いのですよね、今回。いい感じにおさらいしてくれて、すぐこんがらがってしまう私にはありがたいです。
キロちゃんの死で一気に終息に向かった樺太編、それだけキロランケがこれまで担っていた作品上の役割が重要だったということかなぁと。
尾形が何か知っていればいいのですが素直に口を割る男とも思えないし…アシリパさんが真相を知る日はいつ来るのでしょうか。

 

ちょっと違ってちょっと似ている

今回の名言といえばこれですよね。
北海道にいたら知らなかった、他の民族の文化。

他者の違いを認め、共通点を認める。
違うところも似ているところもある、それを知ったうえで生きていく。
多様性や他者の受容ということへつながる重要なセリフだなと思いました。

違う民族でも「私たち」と呼べるところにアシリパさんの寛容さが見えます。
違う場所で違う生活をしている人たちとも、分かり合える部分があるのですよね。
杉元がリスの脳を食べアシリパさんが味噌を食べたように、色々な民族がいてもお互いの存在を認め合うことがアシリパさんにはできるのですよね。
見方によっては露西亜も民族の集合体です。
なのでアシリパさんは少数民族のため蜂起するということはしないと思います。
蜂起して露西亜と戦うなら、それは他の民族と戦うということですから。

 

望む役目

そこで引っかかるのが杉元の回想でのウイルクの言葉です。
戦えるよう育てたというのは、武装蜂起を想定してのことでしょう。
しかも山に潜伏してということなら、具体的に北海道の山での戦闘を想定していると思われます。樺太では環境が違いすぎると思うので。
北海道アイヌが、露西亜もしくは大日本帝国によって消滅することを避けるためのものなのか?
アシリパさんの目指す生き方とは違う役目を望んでいたように思えますね。
それにキロちゃんの望んでいたであろうものとも少し違う気が。
キロちゃんは樺太など露西亜極東部での活動を考えていたのでは?
それとも北海道での蜂起が極東の民族たちにも励みになるのでしょうか。
ウイルクやキロちゃんの思惑の本当のところはまだまだ謎が多いですね。

杉元の役目も気になるところです。
アシリパさんを解放したいのは杉元の望みであって、アシリパさんがどうしたいかは未知なんですよね…。
まして今回珍しく杉元はアシリパさんに真実を伝えていない!
ウイルクが死の直前に言い残した言葉を伝えないのです、彼自身の意思で。
父の死の真相を知りたいアシリパさんにとってはとても重要なことのはずなのに伝えない。
杉元のアシリパさんを戦いから遠ざけたい気持ちはわかりますが、アシリパさんの願いの成就から遠ざかっている気がして、すれ違いにならないかな~と心配です…。
これももしかして脳みそカケの影響?以前の杉元ならしっかり伝えた上でアシリパさんの意思を確認していたと思うのですよね…。
安全であるように真実を伝えないだなんてまるで子ども扱い。相棒という扱いとは少し違うような…。
月島軍曹の「次に暴走したら殺す」という趣旨の発言が、杉元vs月島軍曹のフラグか?と思いながらも肩透かしに終わった暴走杉元。
ああいうわかりやすい暴走ではなくて静かに少しずつ暴走している
とかだったらめちゃくちゃ怖いどうしよう。

ウイルクといい杉元といい、みんなアシリパさんに自分の望む役目を期待していて、ますますアシリパさん自身の望みが何かに焦点が集まっているなと感じます。
彼女は何を自分の役目と見つけるのかしら。

 

日常生活でも、アシリパさんの寛容さで、他者とも認め合いたいですね…。

 

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ゴールデンカムイ第190話感想

こんばんは、うたげです。
いよいよというお話が来ましたね。
先週の鯉登少尉とキロランケの戦闘の決着はどうなるのか?

ネタバレありですので未読の方・コミックス派の方は気を付けてくださいね。

 

明日のために

今回は、情報が多すぎて整理が追いつかないですが、まとめるなら鯉登少尉サービス回と、キロちゃんサヨナラ回でしたね。
鯉登少尉はこれまでの小学生男子的可愛さからのギャップ抜きにしてもとにかく格好いい!
キロちゃんは真相は語らずじまい…。彼の最期に際してアシリパさんの優しさが心にしみると同時に、本人の口から真相を聞けなかったアシリパさんの無念さや期待されている役目の重さを再認識する回でもありましたね。

 

鯉登少尉とキロランケの戦闘

さて、気になる鯉登少尉とキロランケの戦闘はといえば。
鯉登少尉がキロちゃんの腹から引き抜いたマキリは…しっかりキロちゃんの喉に刺さりました。
左手を出すも防ぎきれなかった攻撃です。
谷垣と争って鯉登少尉とも戦って、出血と悪天候で凄まじいスピードで弱まっているのでしょう。
そんな中でも本能的に左手で刀を防ごうとしている、生きる意志が感じられるところにグッときます。
キロちゃんが、まだ死ねない、と踏ん張っているのが伺えるシーンですね。

左手を貫いたマキリを引き抜き反撃に転じるキロちゃん。
鯉登少尉の胸に刀が押し込まれていきます。
ここで気付いたのですが、この二人、おそろいですよね。どちらも相手の攻撃を防ごうと腕や手を犠牲にしていて、喉元という急所が危機にさらされています。
肉を切らせて骨を断つ争い。どうなるかというと。
鯉登少尉が圧倒的に有利なのは一人ではないこと。月島軍曹と谷垣の銃撃によって間一髪のところで鯉登少尉は危機を脱します。

 

鯉登少尉の見せ場

ここから鯉登少尉が最高に格好いいところ。
負傷しながらも「手出し無用」と手助けを拒み自分でケリをつけようとする剣士…この字面だけでも恰好いいですからね。
そこにさらにキロちゃんの今際の一撃を空中で仕留める離れ業!!
一切動じずに爆弾を一刀両断していて、本当に今までのわがまま坊ちゃんっぷりはここまでの壮大なフリだったの…?と思ってしまうほど。
ここの一連のコマは、オノマトペと効果線が控えめで、映画でよくある無音でスロー再生のシーンみたいで、それも鯉登少尉の卓越した戦闘能力の高さの演出に一役買っていますね。

 

アシリパさんとキロランケの別れ

鯉登少尉の見せ場の次はアシリパさんたちの登場です。尾形を背負った杉元と白石も。
これで晴れて先遣隊は役目を終え、解散ですね。小学生男子とママのファミリーかに思えた先遣隊も最後は鯉登少尉の華々しい見せ場で締めくくりです。

息も絶え絶えなキロちゃんをかばうアシリパさん。
彼の状態からもう長くないことを悟り、「全部思い出した」と嘘をつきます。
全部、ではないですよね。暗号の鍵となることは思い出しましたがそれだけでは不十分なはずです。でもここで思い出したと言わなかったらキロランケが浮かばれない…そう考えたアシリパさんの優しい嘘。助からないならせめて安らかに旅立ってほしいですものね…。

でもその一言でキロちゃんのこれまでの行いは報われました。ここまでの旅が走馬灯になりますが…最後に思い浮かべたのはソフィアのこと。
名前まで声に出して呼ぶのだから最も思い入れのある人物と言えるでしょう。北海道の妻子よりも大事に大事に思っていたということだと思います。
キロちゃんはやはり少数民族としての自分というほうに軸足があった、ということを意味しているのかなと思います。北海道はあくまで少数民族として生きていく過程で通り過ぎた場所。でなければ妻子を置いてこんなところまで来ませんよね…。
キロちゃんの奥さんとお子さんは、かつてキロちゃんが語っていたように、キロちゃんがいなくてもたくましく生きていってくれることを祈っています。

しかしながら、ウイルクを殺したのか?というアシリパさんの質問には無言で逝ってしまうあたり、キロちゃんもとんだ食わせ者と言わざるを得ないですね。
アシリパさんが今一番知りたかったことなのにそれには答えず、一人満足して逝ってしまうなんて。
死にゆく人間は勝手ですね。アシリパさんはもう本人の口から真相を聞くことはできません。尾形を通して語られたことが真実なのかはわかりません。結局、なぜ父親は殺されたのか?その疑問を抱えたまま、選択しないといけないのです。

アシリパさんがこれから決めなければいけないことは、彼女自身はこれからどうするのか?です。
キロちゃんが言い残したように、俺たち少数民族のためにソフィアと共に戦いに行きジャンヌダルクとなるのか?
どうにか北海道に戻り元の生活を送るのか?
はたまた別の道を選ぶのか?
キロランケはアシリパさんに自分たちのため戦ってくれることを望んでいました。
キロランケがウイルク殺害に噛んでいるということは(尾形に狙撃の合図を出したので意図はあったはず)、ウイルクはキロランケとは違う願いをアシリパさんに向けていたということだと思います。
でもそれは周りの大人たちの言い分。アシリパさん自身がどうしたいのかはこれから決めることです。
この年齢で、父親もその友人も失い信頼していた仲間(尾形)には銃を向けられるという状況で、結論を出せるものではないですが…。
でも杉元がいるから大丈夫ですよね、きっと。

 

助演男優賞の谷垣

今週のお話は私としては谷垣が助演男優賞です。
上官を案じる軍曹が背を向けてもキロちゃんから目を離さなかったところはもうとにかくイイ!獲物を仕留めるまでは油断しないマタギの鑑です。
そしてそこからの谷垣の心境の複雑さたるや。
彼にとってキロランケはインカラマッを刺した憎い男ですが、それより前に所属は違えど同じ軍人で、旅の仲間で。そのあたりの仲間意識はインカラマッを刺したことで吹っ飛んでいそうですが、まだ子どものアシリパさんにとって数少ない親族でもあり、彼女とウイルクをつなぐ重要な人物なわけです、キロランケは。フチのコタンでオソマちゃんと親しくなりチカパシの面倒を見てきた彼にとって、子どもにとって親しい人間が奪われることがどんなに重大なことなのか。谷垣はそれを真摯に考えてしまう優しい人間だと思うのです。
だからキロちゃんと対峙したとき、敵として殺すのは簡単でも、アシリパさんがいるところでは谷垣にとってキロちゃんはただの敵ではない。守りたい人間の親しい人でもある。だからこそ、二人の別れの場には背を向けていたのではないかな、と思います。
谷垣の心にどんな感情が渦巻いていたのかは想像ですが、顔を背けていることで複雑な心境だということを訴えているようで…やはり野田先生の演出は素晴らしいですね。

 

樺太の旅の終わり

今回、扉絵から、天候が良くなっています。雲の切れ目から日の光が差している。
まるでキロちゃんの旅路の終わりを見届けるように。
流氷では吹雪との闘いもありましたがようやくそれも終わりですね。
その解放感と同時に訪れる喪失感。主要人物の死は初なのでは?
特にキロちゃんはかなり重要なポジションにいたので、彼の死が、物語の終わりが近いことを感じさせて…今回のお話はかなり大きいマイルストーンな気がします。

終わりが見えてきた気がして、寂しいけれど、アシリパさんが望むように生きられるよう最後まで見届けたいです。

 

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カテゴリ:ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ第189話感想

こんばんは、うたげです。
休載を挟んで、ゴールデンカムイの最新話。
先週までは尾形とアシリパさんのお話でしたが、今週はキロランケと谷垣に場面が移ります。近くにいるであろう鯉登少尉と月島軍曹は出るかな?

 

第189話 血痕

扉絵は腹をかばいながら銃を二丁持ち歩くキロランケ
キロランケは谷垣に腹を刺されたのですが、まだ歩ける程度の力は残っているようですね。
キロランケの腹に刺さっているのは自分のマキリ(小刀)。網走監獄でインカラマッを(おおよそ彼女の意思で)刺した際のものです。それを谷垣が持っていて、キロランケの腹に刺すという形で忘れ物を返したのですよね。
そしてキロちゃんの持つ銃が二丁、ということは、自分の分と、谷垣から奪った分でしょうか?この作品は銃が大事なアイテムとして描かれることが多いので、二丁持っているという状況を見ると否応なしに色々考えてしまいますね。何か暗示しているのかなーとか…。

さて、読み進めると谷垣が倒れています。そこに駆け付けた鯉登少尉月島軍曹
谷垣は倒れていますが会話は可能です。キロランケがとどめを刺さなかったのは、今の状態の谷垣でも仕留められるか自信がないくらいに深手を負っているというのと、谷垣の仲間が近くにいる危険性を考慮したのと、両方からでしょうね。

駆け付けた月島軍曹の後ろにしっかりスヴェトラーナがいるところが、ちょっと嬉しい。ちゃんと一緒に連れてきてくれたのですね、月島軍曹が。
緊迫した展開が続いているので、家庭への帰還が予想される彼女の存在は、落ち着きますね。それを気にかけている月島軍曹の情にも。
もっとも月島軍曹としては、かつて自分がいご草ちゃんとしようとしていたことを思い出し、後悔償いといった気持ちも混じっているような気もします。
「そこで待ってろ」とおそらく月島軍曹がスヴェトラーナにロシア語で伝えるところ、このコマの描写が嬉しいです。戦いに参加できないスヴェトラーナなので安全なところで待たせているという理由付けが必要な展開なのはわかりますが、それを例えば「谷垣は彼女に見ていてもらう」とかそういうセリフ回しで見せるのではなく、ちゃんと彼女にわかる言葉できちんと伝えていると読者がわかる見せ方になっているのが…!月島軍曹の情の深い人間性を見せてくれていて、たまらないです。

扉絵でキロちゃんが担いでいた銃のうち一丁は、仕掛け爆弾に使われていました。扉絵はその伏線だったのですね。
この状況下で銃が落ちていれば、誰のものか見るため持ち上げるに決まっています。それを読み、谷垣と一緒に露西亜まで来たであろう仲間を迎撃すべく、銃を持ち上げると起爆されるよう仕組んでいたキロちゃん、さすが元工兵ですね。爆弾を仕掛けるには敵の動きを予想しないといけないですから。
腹を刺された状況でここまで頭が回る動きができるのは、元工兵としての行動のパターンのようなものだとも思いますが、それだけ必死で生き残ろうとしているからとも思います。そうまでして生き残りたい強い意志があるキロちゃん、本当は何を企んでいるのか…私にはまだわかりません。

そんなキロちゃんの仕掛け爆弾は、安定の鯉登少尉のうっかり行動により起爆されました。仕掛けが施されていることに気付き、月島軍曹が咄嗟に鯉登少尉をかばいますが、負傷し出血してしまいます。出血している場所が問題で。
首…?首、元…?月島軍曹が、首元を、負傷している……?
首はまずいです、大きな血管も脊髄も大事なものがうじゃうじゃと通っている…月島軍曹は無事なのか気が気でならない……
そんな中でも鯉登少尉の安否を気遣う様は、さすが軍曹。
と自分を落ち着けて、読み進めたいところなのですが、この展開はかなりショックなのですよね…月島軍曹がもしかしたら…と思うと…。
私の中では、月島軍曹は長く生きて若者を見守る役目があります。悪童と呼ばれていたように若い頃はやんちゃをして、今は軍曹として目下の者たちをまとめ年若い将校を支えている。彼の悪さも含めた経験の豊富さが、若い世代を見守っていくのにぴったりだなと思っていたので、年老いても鬼教官として恐れられる名物軍人になってほしいなと思っていました。
それなのに、もしかしたら、ここで……?
月島軍曹がしぶとく生き残ってくれることを祈っています…。

その後の「ひとりで行くな」は、デジャヴですね。稲妻お銀の、賭博場からの鬼ごっこを思い出します。
あのときは逃げる相手を追うばかりでしたし、たどり着いた先では鶴見中尉という最強の仲間と合流できました。
しかしこの状況はどうでしょう…相手も攻撃をしてくるし、援護する仲間もいない。ひとりで行って勝ち目はあるのか?それも頭に血が上っているように見える状態で。
でも、それでもどうにかなるのが、鯉登少尉の役回りなのでしょう。今回はアザラシに助けられました。動物に助けられるのってヒロイン適性じゃないですか…?鯉登少尉はここでも可愛く幼く描かれているようです。

その後のキロちゃんとの戦闘は可愛さなんぞ欠片もなく、示現流で培った太刀筋の強靭さと肉弾戦での活躍ぶりを見せてくれるわけですが。ここですごいの出てきましたよ。
「私の部下たち」!
「私の部下たち」、というセリフが鯉登少尉から聞かれました。鯉登少尉の口から!少尉らしい言葉が!初めて出てきた!!
しかもこのセリフ、よくも月島を、ではないんです。ついさっき怪我した月島軍曹だけではなく、「部下『たち』」と、ここまでの金塊争奪戦で失われた第七師団の兵士たちにも言及しています。部下として認識してたんだ!と、当たり前のことに少し感動しそうになりました。
だって思い出してみてください。これまでの鯉登少尉は、まるで小学生のようでした。感情と直結した後先考えない行動の数々や、お金持ちを鼻にかけた不遜な態度。子どものような振る舞いばかりが目立っていた鯉登少尉が、ここに来て部下のために戦っているとわかるだなんて…。こんなに胸が熱くなる展開があるでしょうか?
鯉登パパの言う成長はこのあたりを指し示しているのでしょうか。ただ、あのときパパは杉元と「帰らないかもしれない」なんて不吉な話をしていたし、何よりも「よくも部下を」ってやられる前の悪役の吐くセリフみたいで…なんとなく不穏な空気を感じ取っているのは私だけでしょうか…。

今週は久々の第七師団の登場にテンションが上がりました。鯉登少尉の可愛さと勇ましさ、両方を拝めた眼福回と言えます。
が、それ以上に、月島軍曹の負傷が…。たしかに彼がもし作中でフェードアウトするとすれば、年若い上官をかばってだろう、と思ってはいましたが…。
まだまだ元気な月島軍曹を拝みたいです。スヴェトラーナを親御さんのところに送り届けて、自分の中の後悔の気持ちが少し晴れた顔を見せてほしい…!

 

次号、役目

毎週、話の終わりの「END」にて次号について少しだけ触れていますが、今週はコミックスのカバーの折り返し部分に書いてある文章があります。
コミックスから入った身としては、毎巻書かれているこの文は、作中でハッキリと出てこないということはメタ的に非常に意味のある言葉なのだろう、と思っていました。
それが、今ここに出てくる理由は何なのでしょう…。

次号の展開、正直まったくわからないです。鯉登少尉とキロちゃんの戦いなんて読めません。
体格はキロちゃんのほうが上のように見えますが、手負いですし、鯉登少尉も身体能力では負けていないので五分五分、もしくは元工兵としての先読みの経験に助けられてキロちゃんが優勢…くらいまでしか想像できません。

キロちゃんのマキリを鯉登少尉が抜いて首に突き付けているように見えるので、やはりキロちゃんの役目のことを仄めかしているのでは…という予想はしています。
マキリは大事な意味を持つアイテムですからね。マキリは自分で彫るもの。この世を去るときにはマキリに傷をつけこの世での役目を終えさせることが弔いだと、アイヌたちは考えています。のっぺら坊に殺されたとされているアイヌたちも副葬品には全て傷がつけられていたと、コミックス8巻で尾形も言っていましたよね。
このキロちゃんのマキリに焦点が当たっている展開なので、マキリに傷がつき、役目を終えるのはキロちゃんということなのでは…?と思います。

でも役目を終えるまでは死なないはず!なので、おそらく本当の目的や自分の来歴、そういった物語のキーとなることを話す展開が来るのではないかなと思います。
それらを話し終え、役目を終えたらどうなるか?相対している人にとってキロちゃんは仇なので殺されてしまう線が濃厚そうですが…鯉登少尉の戻りを待っているであろう鶴見中尉にとってはキロちゃんはまだ重要人物かもしれません。もしかしたら北海道に連れ戻される展開もあるかもしれませんね。

 

 

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ゴールデンカムイ第188話感想

こんにちは、うたげです。
野田サトル先生の「ゴールデンカムイ」、最新188話の感想です。
コミックス派・アニメ派の方にとってはネタバレの内容含みますし、展開も明記していることがあり未読の方にもネタバレ要素があるかもしれないので、お気を付けくださいね。

 

第188話 生きる

まさかそう来るか~!という展開でした。杉元の声に驚いてアシリパさんが思わず弓を引く手を放してしまい、矢じりに毒のついたままの矢が尾形の右目に刺さる…。
その瞬間のアシリパさんの表情、作中でもこれまで見たことないほど、悲痛なものでした。父の死を聞いたときの慟哭も凄まじかったですが、こちらは驚きや後悔が混じった表情。「傷つけるつもりはなかったのに矢を放ってしまった」といったところでしょうか。
先週の描写で、矢じりに毒がしっかりついているところをあえて描写した野田先生。そこにカメラを寄せることで、アシリパさんが毒を除く意志があったかも?ということを描こうとしていたのかなと思っています。あの緊迫した場面でわざわざ小刀で削り取ることはできないだろうから、ただの深読みでしょうが…コミックスで加筆されていたら嬉しいところですね。なにせ、アシリパさんにとっては、父殺しでとんでもない嘘つきの尾形でも、旅をした仲間なのですから。

そして今週一番問題のところ。目を負傷し倒れながらも、不敵な笑みを見せる尾形
まるで先週自分が言っていた、清い人間などいていいはずがない、という言葉を実践できほくそ笑んでいるかのようです。
ただ、驚いて射てしまった、というのは尾形もわかっているような気がするので、アシリパさんが人殺しをするまでの経緯よりも、人殺しになったあとのことに対して笑っていたのかなと思います。誰かを殺すきっかけは何でもよくて、殺したという事実と、その後、罪悪感から逃れるためにどうするのか、逃れるとどうなるのか、という、ある意味「未来」について興味があるのでしょう。本来、この言葉が持っている意味はもっと明るいはずですが、尾形は清くなくなったあとどう生きていくかのほうに興味を持っていそうです。とすると、尾形の言う「清い人間はいていいはずがない、というのは、清い人間は死ぬべきだ、ということではなくて、人間の本性は清くないからその清い仮面を外せ、という色のほうが強そうですね。勇作さんみたいに仮面を外させることができないままこの世を去った人もいましたが。
「お前もこっち側に来たか」「これから地獄が待っているぞ」「そのときに俺と同じ論理を用いない自信はあるか?」――倒れ行く尾形は、そんなふうに言っているように見えます。

そしてそこに登場する杉元!尾形は当然、この展開の中で杉元に殺されると思っていたので、尾形の目の毒を吸い出したのは意外でした。それもそのはず、ここで尾形が死んだら、アシリパさんが殺したのとほぼ同じ意味になってしまう。アシリパさんに人殺しをさせまいと尾形を一旦助けたわけですね。
ここで杉元が、アシリパさんを尾形の「死」には一切関わらせない、ということを言っています。かなり突き飛ばした冷たい言い方ですよね。尾形は、母に始まり、人の関心や視線を惹きたい節が時折見え隠れします。惹きつける手段が、殺しであることが多いので、結果的に殺すというのが愛情表現、のようになってしまっていますが……つまり、尾形にとって、殺すということは気にかける・見てあげることと同義なのではないかなと。けれど杉元は、それをアシリパさんにはさせないとハッキリ言いました。死ぬとしてもそこには誰も関わらせない、というのは、誰もお前を見ていない愛していない、という意味にも受け取れます。孤独に死んで行ってくれというけん制は、尾形のやり方が、少なくともほしいものを手に入れるには間違ったやり方だった、ということを表しているようで、そのことに気付かないようにしていた尾形の意図的な鈍感さと、別の方法を試すこともできない不器用さに、涙が出てきます。

ところで、尾形には未来はもうほぼないですよね。少なくとも本人がそれまで誇っていた狙撃は、おそらくもうできない。さて、ではどうするのか?ズルズル生き永らえるのか?
私は二つほど展開があると思います。一つ目は、狙撃ができなくても、それを理由に死なれてはアシリパさんが間接的に殺したような格好になってしまうので、杉元によって(少なくとも旅の終わりまでは確実に)生かされる。その後はお互い関知しないところでしょうが、個人的にはどうにか日本に戻り、精密射撃部隊を作ってほしいです。
そして二つ目は、杉元が問い詰めて洗いざらい吐かせたあと、肉弾戦に持ち込み、結果的に殺す。問い詰めるのは、尾形の死の理由を、アシリパさんではなくこれまで数々の裏切りをしてきた危険人物だという別の理由をつけるためですね。肉弾戦なのは、毒の具合にもよりますが、狙撃ができなくても関係のないリングにすることで、これまたアシリパさんが殺したという因果関係を作らないため。
尾形は今以外の生き方はできないのではないかなと思います。不器用だし。なので本人は死にたがるかもしれませんが、そこで効いてくるのが今回のサブタイトル「生きる」。尾形はこの先、アシリパさんを人殺しにしたくない杉元によって、生かされていくという意味なのでは?と勘ぐっています。杉元のセリフの中で「死」というようにわざわざ括弧つきで「死」が書かれているのも憎い演出です。

 

最後、杉元とアシリパさんがようやく再会できたところは、感動的でした。ハリウッド映画でよく見る、娘が父に抱きつくシーンをほうふつとさせます。
そんな感動的なシーンなのですが、おそらく尾形のものでしょう、銃が海に落下しているのも描かれています。尾形は狙撃手もとい軍人としては死んだも同然、ということを暗示しているのですかね。
この見開きのコマでは他にも細かい描写があり、眺めていて飽きません。杉元の背負っている装備、当時のものはみなそうなっているのかもしれませんが、飯ごうが見えます。飯ごうといえば、杉元アシリパさん白石の食事シーン。杉元にも再会できたし、アシリパさんには心の底からヒンナって言ってご飯を楽しんでほしいです。オソマおいしいってまたアシリパさんに言ってほしいな。

今週はもう一つ見開きページがありますが、こちらは何も言いますまい。あえて言うとすれば、変顔にとどまらず、聖〇プレイ描写もありな12歳のヒロインってキャラクター詰め込み過ぎでは?ということに留めておきます。

 

ある意味、前向き

さて今週の尾形を見ていて思ったのですが、この作品、自殺が出てきませんよね。少なくとも私の覚えている範囲では。人を殺して自分も死ぬといった、人情もののような展開にはお目にかかっていません。
そういう、ある意味みんな前向きなところが、この作品の好きなところの一つです。殺したから死んで終わりにしよう、ではなくて、人殺ししをした自分のままでその罪も背負って進んでいくところが前向きだなと思います。
果たして自分の前に何があるのか、そもそも道があるのかわからないけど、とにかく進んでいく、力強い暗中模索具合が見ていてすがすがしいのだろうなと思いました。
気付かせてくれてありがとう尾形。生きたいように生きるか、死にたいように死ねるといいね。

 

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ゴールデンカムイ第187話感想

こんばんは、うたげです。
ゴールデンカムイ187話の感想です。

 

罪穢れ

今週号、尾形のあまりの不器用さに、思わず笑ってしまいました。
尾形の心情総集編というくらいに尾形成分が詰まったお話

引き続き焦ってアシリパさんから金塊の暗号の秘密を聞き出そうとする尾形。

焦るあまりに「杉元に遺言で頼まれた」とまで言い出す始末…
普段ならこんな見え透いた嘘なんてつかないのでしょうが、すぐ近くに自分を殺そうとしている男が迫っている状況ではそうまでしないといけないんでしょうね。

きっちりアシリパさんの恋心まで持ち出してくるし。このあたりは、釧路湿原での鶴の舞のくだりとつながっていますね。表紙絵がホパラタでわかりやすい構成!
でも人の恋心のためを思ってなどいう嘘で、大事な人の死の真相をずっと黙っているのは良くないと思います…真相も何も全部嘘ですけど…慕う相手が死の間際に別の女性の名を言っていたとしても、こんなに大事な最後の言葉を伝えない野暮がおりますか?こんなこと言われたらそいつのこと一切信用できなくなっちゃいますね。でもアシリパさんはそれでも怒ったりせず、それどころか全部教えてくれと頼んでいるので、それなりに尾形のことは信用していたんだろうな…。

尾形の回想がところどころ挟まりますが、杉元から聞いた話は非常に断片的なんですよね。キーワードを拾って尾形が自己解釈で組み立てているように見えます。そんな尾形が作り出した虚像の杉元に、アシリパさんが心の中に持っている杉元像が劣るわけがありません。尾形と杉元よりももっと長い時間を、アシリパさんと杉元は過ごしてきたんですから。
尾形は杉元とアシリパさんの間にある絆を甘く見ていたのか、看破されると予想しつつもこの状況ではそうせざるを得なかったのか…。

結局、尾形の嘘は見破られてしまうわけですが。このあたり、猫ちゃんぽくて、すごく好きです。
「俺ではだめか」というセリフ、俺と比較されている誰かがいるんですよね。アシリパさんとずっといた杉元や、もしかしたらたくさん人をたらしこんできた鶴見中尉のことも指しているのかもしれないです。どちらにせよ、「アシリパさんの信頼を勝ち取って金塊に最も近づいている杉元」「人心掌握術に長け他人を思うように動かせる鶴見中尉」のようにやりたかったのに、俺にはできなかった。ずっと見てきたのだからやり方は知っている、だからできるだろう、さぁやってみたら――だめだった。
という、尾形の中での行動のサイクルが、猫ちゃんっぽいなと思いました。他の猫が高いところに乗っていてうらやましいから自分もジャンプしてみたら届かなかった…という感じで。失敗してもすごい慌てたり怒ったりしないあたりも猫ちゃんぽい…(そんな反応ができる場合ではないのはわかってますけどね)

 

尾形の道理

アシリパさんから金塊の重大なことを聞き出そうとして失敗した尾形。金塊から一気に遠のいたら、次にやることは決まっています。
自分の理論を、アシリパさんに人殺しをさせることで証明すること。
尾形の目的には金塊獲得もあるのかもしれませんが、鶴見中尉を裏切ったり勇作さんを殺したりした動機そのものは、自分がこれまで行ってきた人殺しが関係していると思うのですよね。何度も勇作さんのことが語られていることや今回のお話でもそれはよくわかります。どういう心理からなのかは正直よくわかりませんが…。
人を殺す道理、という言葉が出てきたので、尾形にとって人殺しは、やはり罪悪感があるのでしょう。勇作さんを撃ったときに振り向いたように見えたのも、やはり罪悪感がそう見せたのでは。
道理を持ち出してきて罪悪感に苦しまないよう殺した事実から目を逸らす。人を殺したやつはみんなそうしてきたから殺しても生きていられるのだし、人を殺していないやつだって道理さえあれば殺す、みんなそうなんだ。そう思うことで自分は人間として大事なものが欠落しているわけではないんだと信じたい。
一方で、尾形と対峙するアシリパさんは、誰も殺していないし、父親を殺した相手に対してさえ不殺を貫きます。さらに、どちらももう亡くなってしまったとはいえ、父と母にしっかり愛された記憶を持っている。尾形とは正反対なんですよね。勇作さんと同じで、尾形とは境遇が鏡写しのよう。勇作さんやアシリパさんのような人間がいていいわけがないんです、尾形にとって。清い人間の存在を認めてしまったら自分が家族を手にかけた事実に真っ直ぐ向き合わないといけなくなる。自分に欠陥品の烙印を押すことになる。
尾形の心情、まだ不透明なところもありますが、なかなかシンプルですよね。自分がしてきたことを正当化するために、道理なんて理屈を無理やりつけて、さらに周りにも自分と同じ行いを強要してみんなそうだよねと安心したい。本当に小さい子どもみたいだなと思います。かわいい…愛しい…。やはり尾形はよしよしと撫でたい…なんて庇護欲をくすぐるやつなんだ…!構おうとすると素っ気なく振る舞いそうなところもいいですよね。猫ちゃん猫ちゃん。

 

尾形、後ろ後ろ!

勇作さんは、尾形のたらしこみには乗らず、結果として殺されました。尾形はアシリパさんをたらしこもうとするもできず、人殺しをさせようとしてもできず、結果、殺すしかなくなった。
どうなるアシリパさんvs尾形!?というところで杉元の登場。このページの尾形、アニメ2話修正前の尾形をちょっと思い出させるお顔…尾形のデザインの肝はやはり下まつげなのか?
尾形は殺されるんでしょうねぇ…あの距離なら振り向いて発砲して間に合うとは思えない…杉元の出血大好きな作者なので一発くらい尾形に撃たれそうですが、距離も近いし人数も不利だし杉元が負けるのはないでしょ…アシリパさんも弓で腕を狙うくらいの加勢はするかもしれないし…。
尾形の生存ルートがまったく見えませんが、杉元とアシリパさんの再会が近いのにはすごくワクワクします!!
あと、杉元vs尾形の戦いの中で、もう少し尾形の心境が語られるといいな。

 

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ゴールデンカムイ第186話感想

こんばんは、うたげです。
ブログの設定をいじっていたので更新が滞っていました。
サーバー移管したのですがなかなかに困難でした…まぁこの話はまた別の機会にして。
毎週木曜のお楽しみ、ゴールデンカムイです。

 

186話 忘れ物

いきなり総括ですけど、色々な因果が交わりつつあるなと思いました。そして中でもかなり並々ならぬ因果のある二人が最初に出会ってしまいましたね…。
キロちゃんがこんな形でダメージ受けるとは思わなかったので意外。てっきり先遣隊に気付いてソフィアと一緒に逃げるものだと思ってましたよ。だってキロちゃんは戦う描写がほとんどなかったからそういうイメージないんだもん…。殺意むき出しで戦うキロちゃん珍しい。

さて、今回のお話は全編通してやられっぱなしでした。

まずカラー表紙。温かみのある藍色を基調にしたカラーですごくきれいです。はしゃぐ白石とリパさんを微笑ましく見つめる杉元の表情もイイ。
アオリ文からして、山中で大蛇に出くわしたときの、杉元・白石・リパさん・尾形の四人でいる場面の絵ですね。かつての一場面を、杉元が尾形を殺そうと近付いているこのタイミングであえて表紙にするとは……。今物理的に近くにいるであろう四人。かつては共に旅をした間柄なのに今は裏切ったり騙したり殺そうとしたり…。全部尾形マターですけどね。
また表紙絵の周囲が白く縁取られているのも、写真立てみたいで、懐かしい思い出みたいで切ないですね…。お話に出てくる思い出って、現在や未来と対比されてることが多いので、その思い出が良ければ良いほど今が過酷ってことなんですよねぇ……。こんなこともあったよねって、読者の思い入れですごく切なく見える表紙絵です。

杉元白石の粗野な言葉のやり取りをお互いの顔を見ずにする感じ、ベストコンビって感じで好きですが、この二人に癒されるのも束の間。

尾形……………
ここにきてリパさんに嘘をつくとは。しかもこんな嘘、リパさんならすぐに見破りそう…。これは今する話なのかという点も含めて、リパさんは尾形に情報を渡し渋っている気がします。尾形を疑っているわけではないけど、ここまでリパさんとしては一緒に戦ってきた仲間同士なのに急に裏切りの空気が流れ始めて戸惑っているのかな。
あと尾形の目的も、本人はああ言っているけど本当に金塊なのかどうか…金塊が目的ならここでキロランケを出し抜く真似をする必要があるのかどうか。暗号を解ければ殺されるかもということだけど、キロちゃんはリパさんを殺すかな?うまく取り込めたらウイルクの娘ということで求心力の強いアイコンにできるし。聞き出せたら殺そうとしているのは自分のほうじゃないの?情報を引き出したいがために焦って墓穴を掘っているんじゃあないですかね。ここでリパさんが、尾形はなぜそこまで知っているのか、とか問い詰め始めて時間がかかりそうになったら強硬手段に出る可能性も無きにあらず?

鯉登少尉の示現流が炸裂したのは、格好いい!の一言ですね!重い太刀筋で相手の頭も割るとは…
そして谷垣がキロちゃんと邂逅。ということは月島軍曹と鯉登少尉もわりと近くにいる?
谷垣とキロランケの戦闘は、洋画みたいな展開で、すごくいい…。刺した瞬間そのものを描かないあたりも映画っぽいなーと思いました。

今週はここまで。正月休み明けの仕事はこたえるので体力がこれ以上はもたなくて読み込めません…。

樺太に来て、キロ一行・先遣隊・鶴見中尉・土方さんと、居場所がバラバラになって随分風呂敷広げたなという感じもありましたが、ここにきて急速に集約しつつありますね!
先遣隊が追いつき、キロランケと尾形がどうなるかが気がかりですし、樺太・露西亜帝国編が一段落したら、鶴見中尉の暗号解読編になるんでしょうか?それに、果たして金塊は本当にあるのか、リパさんはどう生きていくのか、誰が生き残るのか。家にヤンジャンのバックナンバーが積みあがって生活スペースが圧迫されても買ってしまいますね…。

 

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「学び舎の乃木希典」の記録

こんばんは、うたげです。
語呂が良くて好きな言葉は「頑張る一辺倒」です。

 

「学び舎の乃木希典」展

現在、学習院大学史料館で開かれている平成30年度秋季特別展「学び舎の乃木希典」をご存知でしょうか。

開催場所が場所ですし(大学構内)、規模も小ぶりで内容もかなりピンポイントのため、在校生かお知らせハガキを受け取った卒業生が知っているくらいでしょうか。
かくいう私は所用で近くに行った際にチラシを見かけ、大好きな漫画「ゴールデンカムイ」の影響で帝国陸軍関連には興味があるので、足を運んだわけです。

 

展示会に行くには

展示会は学習院大学で開かれています。名前を耳にしたことのある人も多いと思います。付属の幼稚園や中高には皇室関連の方が通われていることでも有名ですね。
ロケーション自体はJR山手線の目白駅からすぐです。駅を出て右手の一番近い門が便利ですが、今回お目当ての大学史料館には正門のほうが近いです。正門は明治41(1908)年竣工の風情あるつくりなので見学がてら通りました。

史料館は正門を通り抜けて正面にあります。手前に北別館があり、その向こうが展示室のある北2号館です。北別館も明治42(1909)年竣工の歴史を感じる建物。著名な建築家、久留正道設計の国登録有形文化財だそうです。北別館を写真に収めたり池の鯉を眺めたりしながら展示室へ。(北別館は事務室のようなので立ち入りはできないor自由ではないと思います。)

明治期の建物ということで、「ゴールデンカムイ」作中の建物に似た雰囲気なような気がします。これは否が応でもテンションが上がりますね…

 

展示の中で印象に残ったこと

展示内容については、すごく満足でした。無料でいいのかと思うくらい。解説がすごく丁寧で、じっくり見て回ったら一時間かかりました。小さなギャラリーくらいのサイズの一部屋だけの展示なのですが、内容はとても濃いです。
軍人、特に殉死の人のイメージでしたが、かなり熱心な教育者でもあったようです。全寮制が敷かれた際には学生と一緒に寝起きをしていたみたいですね。それも会議室の一室に家具を少し入れただけの質素な部屋で。国の将来を支える若者たちと過ごす時間は自分も青春を謳歌しているようでたいそう輝いていただろうなと思います。

具体的な展示品の感想としては、天皇から下賜された品は見るからに高級そうでした。もちろん菊の御紋が入っているのですがそれがなくても絶対に高いと思えるような代物ばかり。
一番印象に残ったのは夏季遊泳で撮影された写真です。ふんどし姿の乃木希典が頭の手ぬぐいを直しながら歯を見せて笑っているもの。こんな楽しそうに笑う大将だったのかと少し身近に感じました。
あとは、今と変わらないなと思ったのが、ポストカード!英国王戴冠式に親王が名代として参列する、その随行員として乃木希典と東郷平八郎も渡欧したのですが、その記念の絵葉書が発行されています。親王・王妃のポストカードはもちろん、東郷提督(Admiral TOGO)と乃木大将(General NOGI)の二人のものまで。記念のこういうものが明治から作られていたんですね。それも有名人の顔写真入りで。


展示室ではアンケートに答えるとポストカードがもらえます。写っているのは実際の展示品。右下の軍靴、とても長い…私の太もも上部までありそうでした…

 

展示室以外にもゆかりのものが

展示室で見られるもの以外にも乃木希典関連のものが構内にたくさんあります。

まず、展示室の入り口横には、大きな骨格標本が!こちらは実際に学習院大学構内で飼われていた馬、「乃木号」の骨格標本。ガラスケースの中にいるのですが間近で見られるので大きさに圧倒されます…撮影不可なので写真はないです。

北別館以外にも歴史を感じる建物がいくつかあります。緑も多いので見終わったあとの散歩が気持ちよかったです。

 

ちょっと気を付けたいこと

比較的オープンな大学ですが、明らかに部外者とわかる場合は門の守衛さんに声をかけられるかもしれません。ベビーカーを押した人が「どこに行かれますか」と聞かれていました。その人は「レストランまで」と答えていました。構内にレストランがあり、そこは大学関係者以外でも利用可能なようですが、さすがに赤子連れは明らかに関係者ではないですもんね、そりゃ声はかけますよね…。
また、展示室の入り口では、記名を求められます。名前だけなので渋らず書きましょう。
場所柄、やんごとない方々がいる可能性のある場所なので、不審者を極力入れたくないのだと思います。けれど学びの場としてオープンでなければいけない場所でもあるので、守衛さんや展示室入り口でこういった対策がされているんでしょうね。

 

頑張る一辺倒の始まり

明治時代の学習院での教育は、乃木希典を雷様に例えた風刺画があったくらいに、なかなかに厳格なものだったように思いました。学生は軍に入るべしとの考えから、剣道と柔道を必須科目にしたり。軍隊での訓練を取り入れたんですね。

明治天皇崩御の後に殉死ともとれる自刃をした人の展示だったので、まさしく明治期に思いを馳せた格好です。そのあとで構内で運動部の練習に励む学生さんを見て、平和な時代でよかったなぁ…と思いました。

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