ゴールデンカムイ第209話感想
こんばんは、うたげです。
ゴールデンカムイ最新話の感想です。
ネタバレを含みますので未読の方・コミックス派の方は気をつけてくださいね。
また、以下は私の所感です。
一ファン個人の想像・妄想・曲解を多分に含んでいますので、そういうものとしてお読み頂ければ幸いです。
第209話 ケソラプ
今週は杉元一行の話。
リュウはなんとエノノカたちのソリを引く犬の先頭犬「イソホセタ」に昇格しました。ヘンケのソリの先頭犬の頭の飾りを羨まし気に見ていた頃を考えれば大出世です。先頭犬は特別なので飼い主と一緒に家の中で寝起きする風習があるそうで、一度は二瓶というかつての主人を失ったリュウですが、ここ樺太で自分の居場所を見つけたのでした。
ここがリュウの居場所なら、杉元たちはリュウとはここで別れなければいけません。もちろんヘンケ・エノノカとも。エノノカと鯉登少尉は、犬ぞりを使わせてもらうビジネスパートナーなので別れに涙しながらも鯉登少尉からお金を受け取るエノノカ。しっかりした子です。
でも、エノノカとチカパシは、一緒にたくさんの大冒険をした友達同士。別れるだなんて辛すぎて、さようならとは言いたくないとエノノカは言います。また会える保証なんてないのに、また来るねと返すチカパシ。大泊まで行く通りがかりの馬ぞりに乗って杉元たちとチカパシはヘンケ・エノノカ・リュウと別れます。でも手を振ってくれているのはヘンケだけ。エノノカはヘンケの後ろに隠れて泣いているのです。
ヘンケが手を振るのをやめるくらいにチカパシが小さくなってから、とうとうヘンケの後ろから出てきたエノノカは、チカパシに必死に呼びかけます。その呼びかけに振り向き手を振って応えたチカパシはソリから落ちてしまいます。
チカパシを拾おうと馬ぞりが止まりました。立ち上がったチカパシは、北海道へ戻る杉元たちと、目に涙をためているエノノカを交互に見やりながら、シネマトグラフ撮影の芝居を思い出していました。谷垣がケソラプを演じ、身寄りのなかった弟分の自分に家族を与えてくれたお話です。チカパシの足は、杉元たちのほうへすぐには向かいません。ケソラプのお話とまったく同じ状況に自分が置かれているのです。このまま北海道へ戻っていいのか?ここに残るべきなのか?チカパシは馬ぞりに戻ってくるのをためらいます。
その様子を見て谷垣が動きます。谷垣もまたチカパシとのことを思い出していました。チカパシが猟に勝手についてきたところから始まったこの長い旅路のことを。谷垣の零した大粒の涙がチカパシの頬を濡らします。谷垣はチカパシの背中を押しました。チカパシの居場所はここなのだから残りなさいと。そして二瓶から受け継いだ村田銃をチカパシへ託します。もう俺は支えてやれないから大きくなってひとりで立つまで銃は使うなと付け加えて。
ひとりで立つとはつまり「勃起」!!
こうしてチカパシは谷垣と別れ、自分の家族をつくることになるのです。
谷垣の持つ人間らしさ
今回は爽やかな涙が湧き上がる感動的な回でしたね!
チカパシの明らかに迷っている、というより、もう自分の中ではほぼ決めているのに決定打がない表情。きっとチカパシの心残りは、谷垣とインカラマッだったのでしょう。でも谷垣が送り出してくれるのだからインカラマッも大丈夫だと安心できたのだと思います。
谷垣がメインのお話はすごく感情移入できてしまいますね…泣いてしまうこんなお話…。
杉元たちに、少し待っててくれと言いソリを降りて、チカパシの元に来るまで一体どんな心境だったのでしょう。弟のように、なんならインカラマッと一緒になって世話した自分の子どもにすら思える存在を、遠い土地に置いていくという決断。チカパシの元に歩み寄るまでそれまでの旅を思い出し、こみ上げるものをこらえながら歩きましたが、チカパシに語りかけるときに堰を切って涙があふれたのだと思います。
家族をつくりなさい、なんてまるで親が子に言い聞かせているような口調じゃないですか。普段の谷垣とチカパシの間柄なら「つくるんだ」「つくれ」とかでもよさそうなのに。きっと谷垣自身も自分に言い聞かせているから「つくりなさい」なのかな、と思います。別れるときに本当に試されるのは送り出す側ですよね…谷垣もこの旅でずいぶん成長したのですね…こんなこと言えるなんてまるで父親みたい…。
谷垣は、ある意味ひねくれた動機を持つ者だらけのゴールデンカムイでは、わかりやすい動機を持っているのでつい自分自身を重ねて読んでしまいます。入隊のきっかけになった妹さんの件は、家族を奪われた無念さ。賢吉の件は、親友の苦しみを知りそれを受け入れる愛情の深さと、自分の役目は何だろうと自問する謙虚さ。どの要素も私をはじめたいていの人が持っている部分だと思います。人を恨んだり愛したり、時に他人を通して自分の姿を見たりそれで迷いが生じたり。谷垣はすごく人間らしいキャラクターです。それゆえに今回の彼の心の動きを想像して泣いてしまうわけです。
自分以外の誰かのために
また、谷垣の特徴として、何度か変化=成長しているところがあると思います。妹殺しの犯人として憎んでいた賢吉を、最後には許し看取ったこと。はじめは警戒していたインカラマッとは、彼女の打算的な一面に何度か騙されながらも、彼女を救うため樺太行きを決意するほどの仲になっていますし。今回の件も、大切な人だからこそ選択を間違ってほしくないという思いでチカパシの背中を押したのです。
この変化というか、成長。ゴールデンカムイの物語の中では変化しているキャラクターが何人かいますが、わかりやすくいい方向へ変わっているのって、白石と谷垣くらいなのですよね。
白石は自分の欲望に忠実に生きていましたが、網走監獄で杉元と離れて樺太にキロランケたちと行き、離脱する選択肢もあった場面で、杉元の頼みだからと自らアシリパさんへついていく道を選びます。安全なところにいたいという自分の欲求とは違うのに。谷垣は今回チカパシのためにあえて別れを選択しました。自分のためではなくて誰かのために選択するということをやってのけたこの二人の男は最高にかっこいいですね。
杉元もこの最高にかっこいい側に入れそうな気がしています。アシリパさんが望むこと、アシリパさんが後悔しない道を選べばかなりかっこいい。ただアシリパさんの場合はまだ彼女にとっての答えが定まっていないので、アシリパさんの選択を手放しで後押ししていいものかという疑問の余地はあります。そこがまだ杉元を悩める青年枠に押し留めていますね。主人公なのだからまだまだ大いに悩んで迷って暴走してくれていいのですが。
杉元の周りがあまり見えてなさそうな感じが絶妙に青臭くて、彼の変化が楽しみです。主人公サイド寄りで描かれているのはまず杉元と、アシリパさん白石に谷垣あたりが中心ですが、白石と谷垣は前述の通り変化しているのでこれからはより杉元とアシリパさんの変化にスポットライトが当たるものと思います。
戦場で心を失った青年がアイヌの少女と過ごすうち戦争に行く前の自分を取り戻し、今度は自分を救ってくれた少女をいかに救うか。今の杉元はアシリパさんを戦いから引き離すことで救おうとしているようですがアシリパさんの望みが戦うことでしか叶えられないならどうするのか?今後の物語はここが焦点になるのかなと思っています。
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