第272話 イポプテ
菊田と有古のかつて。塹壕から息も絶え絶え見上げた夜空の月。生存確認のために何か話せと言われた有古は、父親とマキリの話をする。
有古はアイヌとして生まれたが、アイヌであることを疎ましく感じていた。アイヌとからかわれれば喧嘩を売り、和人であろうと分け隔てなく手を貸した。アイヌを誇りと思うアイヌもいる一方で、有古のようにアイヌであることにアイデンティティを見出していないアイヌもいるのだ。しかし有古がアイヌに生まれたことは変わりなく、父親シロマクル――金塊を求めたアイヌ7人のうちの一人でもある――は代々伝わる文様のマキリを息子へ教えたがっていた。有古力松のためにシロマクルはマキリを作り始めたが完成しないまま仲間割れによって死亡。シロマクル自身のマキリも行方不明になり有古は代々の文様のマキリ作りを学ぶ機会を失ってしまった。
その話を聞いた菊田は生存確認のための話だったにもかかわらず相槌を忘れていた。できなかったのだろう。シロマクルの死の真相を知る菊田は、相槌を打てなくてすまない、という流れで、有古の肩に手を置き、「すまん」と明らかに別のことで謝罪の言葉を述べる。