ゴールデンカムイ第227話感想

こんにちは、うたげです。

ゴールデンカムイ最新話の感想です。
ネタバレを含みますので未読の方・コミックス派の方は気をつけてくださいね。
また、以下は私の所感です。一ファン個人の想像・妄想・曲解を多分に含んでいますので、そういうものとしてお読み頂ければ幸いです。

 

第227話 共犯

宇佐美時重に喉を踏み抜かれた高木智春は泡を吹きました。鶴見中尉が止めに入るものの危険な状態です。
しかし宇佐美少年は、気が進まなかったのに篤四郎さんが言うから、と言い出します。

宇佐美によれば智春は親友ではなく、鶴見中尉との時間を邪魔する存在でした。
智春の父親は陸軍第二師団のお偉いさん。そのため鶴見中尉に目をかけてもらっていたでしょうし、東京に行くのも陸軍幼年学校に行くため。東京行きを宇佐美に最後まで言わなかったのは宇佐美を見下していたから。そういった宇佐美と智春の生まれた境遇の違いからくるものは宇佐美にとってまだ許せることでした。
しかし鶴見中尉の一番だけは譲れません。鶴見中尉は智春に「君のほうが時重くんより強くなれる」ということを言ったのを、宇佐美は聞いてしまったのです。それゆえに宇佐美は凶行に走ったのでした。

鶴見中尉といえば、智春少年の命の危機にも慌てず、完全に頭に血ののぼっている宇佐美の様子にも狼狽えず、それどころか「智春くんにああ言えば彼が諦めて帰ると思ったからだ。一番は君だ」と宇佐美に言うなど、一枚上手です。その言葉を聞いて安心して笑顔に戻る宇佐美。
しかし智春はすでにこの世を去っていました。共犯関係となった鶴見中尉と宇佐美少年。宇佐美を殺人犯にしないため、鶴見中尉の馬に蹴られたということで智春の死を処理。知らせを聞いた智春の父は怒り狂い馬を撃ち殺しました。こうして宇佐美が馬へ向けるほの暗い感情が形成され、宇佐美は彼の人生で初の殺人を犯したのです。
しかしこの一件で鶴見中尉は第二師団にいられなくなり北海道へ左遷され、第七師団で宇佐美の入隊を待つことになります。

武田先生と話す鶴見中尉。日清戦争を経て一つの確信を得ていました。
人が殺人への抵抗を乗り越えるには「愛」が必要だと。
愛する戦友の期待を裏切る不安が敵に銃口を向け引き金を引かせるのです。
人を殺めることへの罪悪感すらも乗り越えるほどの愛を部下と育めるかが指揮官の仕事、と鶴見中尉は考えます。

しかし中には罪悪感を抱かない、生まれついての兵士もいます。
ほとんどの兵士が羊なのに対し「犬」にも例えられるような兵士は、まさしく忠犬のごとく、飼い主に忠実で敵には攻撃的。飼い主のためならどんなことも厭いません。
それが宇佐美でした。

一方、北海道のどこかの病院では。
インカラマッが千里眼で盗まれた二階堂の義手を探し当てていました。インカラマッの占いをすっかり信じ込んでいる鯉登少尉月島軍曹にインカラマッに試しに見てもらえと言います。
月島軍曹の脳裏にちらつく探し物の影。その人物は月島軍曹にとってはいわば人質のような存在です。谷垣にとってのインカラマッと同じく人質。鶴見中尉の策略で愛する者同士が会えないという似た境遇の月島軍曹とインカラマッ。この二人の交流は果たしてどんな意味を持つのでしょうか。

 

愛ゆえに

宇佐美はやっぱり激ヤバでしたねー。生まれながらの兵士。後悔や自責を感じない。
その性質を見抜いて、智春少年を助け第二師団での地位を守るよりも宇佐美獲得のほうが良いと即座に判断した鶴見中尉もさすがですけどね。

殺人の童貞喪失したのは宇佐美と同じくらい尾形も幼い頃でしたが、尾形は殺人に対して罪悪感を覚えているようなので、尾形は生まれながらの兵士というわけではなく生まれ育った環境ゆえにそうせざるを得なかったのでしょうね。誰かを手にかけた罪悪感を内に押し込めて見ない振りをしてきた尾形は、樺太でどうやら何か振り切れたようですが。

今回は「」というキーワードが鶴見中尉の口から出てきました。
鶴見中尉と部下との愛で第七師団はここまで来れたのですね。
愛を育んできたと考えると、尾形の言っていた「たらしこみ」という表現も非常にしっくりきますね。旗手である勇作さんに童貞を捨てさせようとお膳立てしたのは愛が形成されているかを試していたのでしょうね。仲間のために自分の一線を越えられるかどうか。勇作さんはその一線が殺人ではなく、旗手としての隊員たちからの信頼だったわけです。この場合、隊員たちは裏切ることとなりますが、それによって鶴見中尉や尾形への愛は証明されることになりますね。

鶴見中尉の言う「」は、足枷のようなものに感じます。戦友の期待を裏切る不安から敵兵を撃つので、世間一般に想像する愛情ではなく、何かもっとこうマイナスイメージのあるようなものだと思います。
そして、自分と何かを結び付ける非常に強烈な感情が「」だとするならば、怒りや恨みも「」になると言えると思うのですよね。
谷垣は、賢吉に抱いていた怒りを、賢吉の死と彼の語る真相で消化したと思いますが、これまでの動機を失って不安定な状態だったと思います。そこへ差し伸べられる鶴見中尉の手。お前が必要だと囁きます。
尾形は、鶴見中尉が自分をたらしこもうとするのをうまく使っていた部分はありますが、やはり父親への恨みが原動力の一端にはなっていたと思うので、それをなくしてバランスを失った時があったと思います。そんなときにも寄り添い愛を囁く鶴見中尉。
こんな感じで、何かに向ける並々ならぬ激情が行先を見失ったときに、そっと支えるようにして愛へと挿げ替える手口なのかなと思います。ただ谷垣も尾形もその感情は鶴見中尉ではない誰かに向けていたもの。鶴見中尉に対し激怒した月島軍曹や、妄信的な憧れを抱いている鯉登少尉とは少し違います。だから谷垣と尾形の二人は「」という名の足枷を外して、歩き出したのでしょうかね。

ではその足枷を外すものって何でしょう。とても興味があります。
尾形はアシリパさんへの執心のように見えますが、鶴見中尉の例を見るにアシリパさんへは「」ではないのかなと思います。何だってやる、という献身などは微塵も見えないですからね。
谷垣はインカラマッとの愛情はあるでしょうが、それよりもマタギとしての生き方を思い出したことのほうが重要だったのではと思います。山での生活が自分の根源的な部分を目覚めさせてくれる。

期待を裏切る不安から引き金を引かせるのが「愛」ならば、罪悪感を覚えさせ踏みとどまらせるのは、その人のありのままを受け入れることではないかなと思います。ちょっとうまく言葉がまとまらないですが…。
その受け入れる役割を果たしているのがアシリパさんなのかなーと。杉元と狩りを楽しみ、谷垣にはコタンでの祖母との交流を提供し(彼女が望んでそうしたわけではないにせよ結果的に)、尾形をも肯定したのではないかなと。アシリパさんは誰も拒否せず全て受け入れていますからね。

ただ目的のためならば鶴見中尉の「」のほうが強力です。鶴見ボーイズが強い理由が今回わかりましたが果たして杉元やアシリパさんはそれにどう対抗するのでしょうね。
本編と関係ないですが私もアシリパさんと一緒に過ごしてみたい…体力的にはハードだけどすごく癒されそう…。

 

 

 

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