ゴールデンカムイ第236話感想

こんにちは、うたげです。

ゴールデンカムイ最新話の感想です。
ネタバレ含むうえに一ファン個人の想像・妄想・曲解だらけなので苦手な方は気を付けてください。
小難しい考察はしない・できないので、気楽に読んでくれたら嬉しい。

 

 

第236話 王様

海賊房太郎へ殴りかかった杉元。至近距離での戦闘に拳銃で応戦しようとする海賊だが、杉元の手が撃鉄を阻んだうえ拳銃自体も取り上げられる。さらにもう片方の手で杉元が剣を引き抜いたのを見て、海賊はその長い脚で杉元を蹴り飛ばし間合いを取った。
海賊と杉元が戦う下、船室では杉元の銃まで使い未だに無双状態にいる郵便配達人がいた。先週の話で見せた彼の射撃の腕はヴァシリによるもの。ヴァシリを乗せた小舟が離れてしまった今、郵便配達人の弾が誰かに当てることはないが、それでも郵便配達人によって仲間が撃たれて今の調子に乗っていると言っても過言ではない状態を許してしまっていることに、海賊の部下は苛立ちが隠せない。そこでアシリパさんの出番。弾切れの郵便配達人に、こっちに弾があると促し船室の外へ連れ出すと、郵便配達人の尻を蹴り川へ突き落した。杉元の銃はしっかり回収したうえで。丸腰になった郵便配達人はアシリパさんに言われるがまま川を泳いで逃げていった。

下の騒ぎを収拾させたアシリパさんが甲板の杉元に声をかけたのをきっかけに、杉元と海賊の戦闘は一時中断。海賊の部下からは郵便配達人が郵便物を置いて逃げたと、彼にとって見えたものを繋ぎ合わせた結果の報告が入り(実際はアシリパさんに蹴り落され逃げろと命じられたからなのだけど)、さらに白石も杉元を止めに入り、二人の戦闘はお互いそう重い結果を残さず終わった。

停戦後。白石が海賊に尋ねる。暗号は解けないとはどういうことかと。
海賊は一年ほど前にヤクザの親分・若山輝一郎に会っていた。彼の入れ墨を剥がすつもりで近付いたが、手下に囲まれ逆に身ぐるみ剥がされた状態に。そんな中で若山の親分が「入れ墨の暗号は解けない」と言ったのだ。
その理由はやはり、どこか誰も知らないところで死んで入れ墨の回収ができなくなったり、怪我や意図的な破壊などで入れ墨の判読ができなくなる可能性があるから、だ。
若山の親分は海賊房太郎を捕まえたにも関わらず入れ墨を剥がさなかった。このことは刺青人皮は役に立たないと強く確信していたからだろう。飴売りの「若山の親分のがっかりした顔もいい顔だった」という発言ともつじつまが合う。
海賊も金塊を狙っていたが若山の親分に会ってからは刺青人皮の収集を諦めていた。そこで白石の言うように、最初に金塊を隠した場所を探るルートへ切り替えた。海賊は隠し場所がわかったかどうかは明言せず、白石と杉元に手を組むことを提案する。

海賊の夢は、自分やその家族を疎む人がいない、自分の王国を作ることだった。温暖な東南アジアの島で果物貿易で暮らす日々。子どもをたくさん持ち、海賊の顔が刻印されたコインが流通する、海賊のための王国。
海賊は家族を疱瘡で失っていた。家族が疱瘡にかかれば自分もいつかかかるやもと日々怯えるし村からも疎ましがられる。だからこそ海賊自身が王になれば、家族が辛い目に遭うこともない。幼心に抱いたその夢のため生き残り金塊を探しているのだ。
杉元は金塊を手に入れ叶えたい夢はないのかと尋ねるが杉元からの返事はなかった。
やがて江別が近付いてきた。海賊は船室で未だ銃撃の恐怖から床に伏せている人たちへ向けて、騒いだお詫びに郵便の現金書留に手をつけるだけにする、と伝え、しっかり強盗の仕事を果たそうとする。そのとき開いていた杉元のカバンから覗く、平太師匠の煙草入れ。平太と行動を共にしていたはずの海賊がそれの中身を知らないはずもなく、海賊の目に留まる…。

さて、杉元は金塊を見つけたら自分のために何をするのか?
杉元の口からその答えは聞けなかったが、結核で家族を失ったからこそ海賊の語る過去と夢には思うところがあった。
杉元の記憶の中で、病床の父親は絶えず咳をしていた。縁側に出て黒猫を撫でながら、黒猫は結核を治すはずなのに治らないのはお前が滅多に帰ってこないからか、と語りかける杉元。療養所は空きが出ず治癒はとうに諦めた様子の父親に対し、杉元はどうするとも決断できずにいたらしかった。そんな息子に対し、自分の運命を悟った父親が言っていることはほぼ「父を見捨てろ」だ。父に似てお節介で優しい杉元にはあまりに酷だが、それをわかったうえでなお、自分のために生きることは悪いことではないからと言い聞かせる。
家族を見殺しにするような真似はしたくないがでも生きねばならない。覚悟を決め家を飛び出す杉元は結核のしがらみを断ち切るように言う。「俺は不死身だ」

 

狩りのあと

杉元のお父さん初登場!でも結核でもう長くはないんだね…。
杉元は優しいからこそお父さんはきっとああ言ったんだろうな。自分のために生きるのは悪くない、って。それでも杉元の中には罪悪感があったと思うけれど。だからこそ生き残っている数少ない昔馴染みのために金塊を探し始めたのではないかな…梅ちゃんのために。自分を知っている人のために何かしなければと思ったんだろうね。
しかし杉元の中の優先順位は今はきっとアシリパさんのほうが上に来てしまっているだろうし、もしアシリパさんやアイヌのほうが落ち着いて、無事梅ちゃんの目が良くなったとしても、じゃあそのあと杉元は「自分のために」何をするんだろう?そこはたしかによくわからない。その後は何か吹っ切れたように日本中を旅して悠々と暮らしてほしいななんて思ったこともあったけれど、梅ちゃんの幸せを見届けてアシリパさんたちの生活が平穏に続いていることを確認したら、急に一人になってどうするんだろう。アシリパさんのコタンで暮らすという選択肢もあるだろうけどその未来があまり見えないんだよなぁ。今はまだ。

杉元の今の原動力である「誰かのため」は、ゴールデンカムイの作中で度々良い方向転換として描かれていると思う。谷垣がフチやインカラマッのために鶴見中尉に背いたり、白石が杉元やアシリパさんのために樺太の旅続行を決めたり。「家族のため」という動機は父親としてとても自然で前向きで、非の打ち所がない。白石のようなケースは、本人の行為が直接的には還元されないだろうけど、白石はもともと一人で生きてきた男だしこれから一人でも大丈夫だろう。仲間のための行動に感謝されてその気持ちよさ清々しさは間違いなく本人にとってプラスになる。
でも杉元の場合は少し状況が違う。先も言った通り、梅ちゃんを救いたいのは、そうすることで寅次はもちろんのこと、家族を見殺しにしかできなかった自分の罪悪感からそうしたいのだと思う。罪悪感からもはや義務に近い意味の、「そうしなければいけない」。これはただマイナスを限りなくゼロにしたいだけだ。しかも、自分の罪悪感のために人を助けているのだから、自分のために人を使っているという気持ちが起きやすくて更に罪悪感を抱きそう…要するに罪悪感から来る行為は負のスパイラルにはまるだけで何も前進しない。
それに対しアシリパさんを助けたいという杉元の気持ちは、おそらく罪悪感からではないだろうから、それは良いことなのだろうと思う。恩を返すという意味もありそうだけれど、何より杉元はアシリパさんがこれまで通りの生活を送ってくれることを願っているから、これこそ真っ当な夢になるだろう。ただこれも先に言った通り、アシリパさんがアイヌらしい生活を送り続けるその景色の中に、杉元という青年はいない絵が思い浮かぶ。
杉元は優しいから、こんな未来が目に浮かぶ。
アシリパさんは間違いなく事が片付いたら杉元に一緒にこのコタンで暮らそうって提案をする。そしてそれを断るでもなく曖昧に濁して、皆で食事をした翌朝、アシリパさんが目を覚ますとすでに姿を消してる杉元。

多分、杉元が罪悪感を抱いたままだからなのだろうな…。梅ちゃんを救えたとしても父親を救えず自分だけが生き残ったという気持ちを抱えたまま、救えなかった人間は一人でいるべきなんだ、とか考えていそう。杉元が自分の家族・梅ちゃんとどう蹴りを付けるのかが杉元の今後を決めるのかもしれない…。

今の杉元は生きることに精一杯で、生きる今のその先にはまったく目が向いていないんだろう。狩りをする肉食獣みたいに。
動物ならそんな刹那的な生き方でもいいでしょうが、人間はなにかと「狩りのあと」を夢だなんだと言って語りたがるもの。でもそういう夢だとかいうのがあれば、きっとこのキャラクターは作品が終わってもその世界で夢を追って生き続けるはずだと読者側も信じられるわけで。杉元にも生涯夢を持ち続けてほしいなと思う。現実世界で夢を見るのが難しいからこそ余計にね。杉元が抱える悲しさや寂しさ、嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、そればかりでは遣る瀬ないから、彼がこれから少しでも多く幸せを感じられるといいな。

 

 

 

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